日野用水堰、石積み魚道完成しました

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5月11日、12日(火)昭島市と八王子市の多摩川にまたがる日野用水堰で石組による魚道の建設が行われました。この日野用水堰には魚道はありますが、魚道にたどりつけない多くのアユがコンクリートのたたきに迷入し、高さ2mほどの堰に向かってジャンプを繰り返し結局は越すことのできない、アユにとって嘆きの壁といえる難関の堰です。ですから、例年この時期には秋川漁協、奥多摩漁協、多摩川漁協そして東京都水産課などから約40名で500体の土嚢をたたきの上に積み上げて簡易魚道を設置し天然アユの遡上を促進していました。しかし、設置しても設置期間が決まっていたり、雨による増水時には撤去するなど、作業負荷が大きく、堰の改修が望まれておりました。そんな中、2年前に立ち上がった「江戸前アユの遡上を促進する地域協議会」(井上信治座長)の決議で、日野用水堰と昭和用水堰の改修に向けて、具体的な取り組みに着手しようと決議がなされ、今回の事業が動き出しました。

しかし、決議されたからと言って、簡単に事業が始まるわけではありません。多摩川は一級河川ですから、管轄するのは国交省。国交省の許可、認可に始まり、誰が費用を出すのか。幸い東京都が予算化してくれ、実現に近づきました。

そして、最も重要なことは、堰下のたたき部分に迷入したアユを上らすため、どのような補助的な魚道を作るかです。

単に入札し業者を決めても、川の流れを知っていなければ雨による増水で、すぐに壊れ流されてしまいます。また、サカナ、特にアユのことを分かっていなければ、作っても上れない。また、上っている時にサギなどに食べられてしまう。

など費用だけかけて無駄なものを作ってしまう可能性もあります。

そこで、一人の方に白羽の矢が立ちました。

その方は、

日本大学理工学部土木工学科教授の安田先生です。

安田先生は河川環境や河川工学、魚道の専門家で各地の魚道設計や研究をされており、東京都の魚道会議の座長をしていることもあり、今回の日野用水堰のコンクリートたたき部分の迷入アユを救うための「石組魚道」を設計・建設してもらうことになりました。

建設初日、まず、我々に設計思想を説明してくれました。

石組みはサカナのうろこ状に作り、水の抵抗を最小限にし大水の影響を少なくすることと、石の間に隙間を作り、その隙間に水を流しその隙間を上るようにする。そうすることで、外から見えず、サギなどの鳥に捕食されないようにする。など、とても考えられています。

そして最も先生がこだわったのは、使用する材料は河原にあるものを使うということです。

金属など工業製品は一切使わず、石積みに使用した大きな石は河原から業者が数百個集め、その中から先生が選別し100個に絞りました。そして一部に使用したモルタルも現場の材料で作るという徹底ぶりでした。

作業が始まると、先生は自ら大きな石を動かし、作業の中心となって泥だらけセメントだらけになって石組みを進め、二日間で完成しました。

そして、5月15日(金)に通水すると良い具合に水が流れ始めました。

今年も多くの江戸前アユがこの石積み魚道を使い、上流を目指すことでしょう。

[石と石の間には空間があり、そこに水が流れ遡上を助けます]

[堰の上から見るとこんな状態で、石の下にまんべんなく水が流れています。]

[このたたきの中に多くのアユが迷入しジャンプを繰り返します]

[作業開始前、工事の説明をする安田先生(中央)]

[堰下の石を見ると真っ黒にハミ跡があります。確実に江戸前アユが来ています]

[多くの行政関係者も視察に来ました]

[あと数段積めば完成です]

[重機のすぐ近くで非常に危険な作業になります]